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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(行ツ)10号 判決

上告人 岡崎染工株式会社破産管財人 田辺照雄

被上告人 中京税務署長

訴訟代理人 寺島健

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

破産法人の清算中の事業年度の所得に係る予納法人税について国税徴収法八二条の規定により被上告人がした本件交付要求は行政事件訴訟法三条二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものでなく、右交付要求の取消を求める本件訴えは不適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でなく、また、論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 角田禮次郎 谷口正孝 和田誠一 矢口洪一)

上告理由

原判決は法令の解釈に誤りがある。

原判決は、破産者に対する租税債権(本件の場合、破産宣告後の清算事業年度の予納法人税)について、徴税官庁(本件の場合、被上告人)の破産管財人(本件の場合、上告人)に対してなす交付要求は単にその弁済を催告するものにすぎず、破産者ないし破産管財人の地位或いは、権利義務に何らの変動を生ずることはない。それゆえ本件交付要求は、取消訴訟の対象とはなりえないと判示し、上告人の控訴を棄却した。

原判決は、右判示の理由として、破産者に対する特定の租税債権が随時(優先的に)弁済すべき財団債権に該当するか否かは、破産法四七条二号により定まり、交付要求の法的効果として当該租税債権が財団債権となるものでなく、破産管財人は交付要求の有無に関係なく、財団債権と判断した租税債権について随時弁済の義務からであるとする。

右理由として原判決の述べるところ自体は正しいが、本件交付要求が法的効果を生ずるものでないとの判示に対する理由になつていない。

問題は、交付要求に、その対象となつている特定の租税債権が財団債権に該ると否とにかかわりなく、交付要求自体の効果として包括的強制換価手続である破産手続の執行機関である破産管財人に当該租税債権について優先的弁済の義務を負わす法的効果があるか否かであり、交付要求に、当該租税債権を財団債権とする効果があるか否かではない。一般に交付要求は、執行機関に交付要求にかかる租税債権を優先的に弁済(配当)する義務を負わす行政処分であると解されているが、その場合でも交付要求が、租税債権の性質を変るものとは解されていない。

要するに原判決は、適切な理由づけをなさずに本件交付要求は破産管財人たる上告人に何ら権利義務の変動を与えるものでないという法律解釈のもとに実体的判断に入らずに上告人の訴を却下した第一審判決を支持し、控訴を棄却した。

しかし、右原判決の見解は、国税徴収法第一三条及び第八二条乃至第八五条の解釈を誤つたものである。

右法条は、破産管財人に対する交付要求は、破産法上優先的に随時弁済さるべき租税債権(即ち財団債権に該る租税債権)に限つてなさるべきであるが、交付要求自体は、対象たる租税債権が財団債権に該ると否とを問わず交付要求の効力として、破産管財人に当該租税債権を優先的に弁済すべき義務を負わせるものと解すべきである。

交付要求が一般的には行政処分でありながら、その相手ある執行機関が破産管財人である場合に限り、事実行為にすぎないものとなるという理はない。ただ、適法な交付要求は財団債権に該る租税債権についてなされるから、事実上、その意義が大きくないというだけである。

破産管財人に対する交付要求に関する判例として、昭和四三年一〇月八日最高裁判所第三小法廷でなされた判決がある(民集二二巻一〇号二〇九三頁)。

この判例は、交付要求そのものでなく、交付要求に対する裁決の取消訴訟ではあるが、破産管財人に対する交付要求が原判決のいう通り事実行為にすぎないのであれば、それに対する裁決の取消を求める法的意義も存せず、訴の利益を欠くとして職権で訴却下がなさるべきであるのに、実体的判決がなされているところから、明らかに交付要求がそれ自体の効力として破産管財人に、当該租税債権に対する優先的弁済の義務を負わせるとの解釈に立つものである。

以上の通り、原判決は、最高裁判所の判例に実質的に違反し、法律の解釈を誤つたもので、その誤りが結論に影響すること明らかで破毀さるべきものである。

以上

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